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第21部分

とよりも、母親に嫌われる事の方が辛いと思う。そんな辛い人生を歩みながらも、平然としている歩が可哀想だと、思った。

「健人と言い合ったときに、母さんを重ねるのはやめたよ。どんなことを言おうと、母さんは俺と言い合ったりなんかしなかったから。俺とは絶対に目を合わさないし、何も言わない。本當に、母さんの前で俺は、透明人間だったから。でも、健人は俺と會話をしてくれるし、目も合わせてくれる。いつの間にか、俺は本音なんか人にぶつけなくなったけど、健人だけにはちゃんと本音は言ってた」

歩はクスッと笑ってから、健人の髪の毛を撫でる。その手はとても優しくて、逆に悲しくなった。

「親友だと思ってるジンにも、俺は本音を言わない。でも、健人にはこうして言える。家のことを話したのは、健人が初めてだよ」

こんなに苦しい過去を誰にも言わず、椋Г皋zめていた歩を見ていると、健人が苦しくなった。歩はそれを苦しいことだと分かっていないのだろう。分かっていないから、こうして笑えるのだ。これほど悲しいことは無く、悲痛な笑みに見えた。

健人は歩に手を伸ばし、少し大きい背中に手を回した。抱きしめるつもりが、抱きついたようになってしまい、ゆっくりと背中を撫でられた。

「どうしたの、健人。ダイタンだね」

「……うるさい。お前、ちょっと黙って俺に抱きしめられてろ」

「俺達、可哀想だね」

健人にしか聞こえない、小さい聲だった。歩は顔を健人の肩口に埋めて、ゆっくりと息を吐きだした。自分より小さい體なのに、力強く抱きしめられると支えられているようだった。可哀想と言う言葉は嫌いだったけれど、それを二人で分かち合えるなら、それでも良かった。

「……俺達は、可哀想なんかじゃない」

「え……?」

「もう、可哀想じゃない。可哀想なのは俺達の過去だ。俺だって、自分の気持ちを誰かに喋ったことは無い。お前だけだ。俺はこれからも、誰かに喋るつもりもないし、可哀想なんて言わせない。可哀想だった過去は、今日でもう終わりにすればいいじゃねぇか」

ひと際強く、背中を抱きしめられて、歩は笑った。全てを吐きだしてすっきりしたのと、可哀想だった過去とはもう決別するときが來たからだ。まさか、健人に救われるなんて思っても居なかった。それは健人も一緒で、歩に救われるなんて考えても無かった。二人は少し、抱きしめあったまま、笑っていた。

「過去は消せないけど、塗りつぶすことはできるからね。これから、塗りつぶして行けばいいよね」

「……そうだな」

「難しいことだけど、健人となら、何でか知らないけど出來る気がするや」

歩は健人を引きはがして、顔を覗きこんだ。まっすぐ歩を見つめている健人の目を見て、笑みを向ける。大嫌いだったこのまっすぐな目も、今は嫌いではない。嫌いや好きと言う感情は、曖昧で変化しやすい。けれども、今は、自信を持って言える。

「好きだよ、健人のこと」

三度目の好きは、戀だった。

好きと言う言葉は魔法みたいで、ウソのようにも聞こえた。唇が觸れそうになる寸前で、健人は歩の體を押した。忘れられないあの光景が、頭の中によぎった。

「……お前さ、彼女、いんだろ。だから、こんなことすんな」

唇が震えて、上手く言葉が出せなかった。それを聞いた歩はきょとんとした顔で健人を見つめてから、どうしてと首を傾げた。彼女がいるなんて話は、一切したこと無いし、好きだと言ったのにどうして彼女が出てくるのか分からなかった。

「だって、この前、公園で……」

公園でと言われて、歩は「……あぁ」と頷いた。まさか、あの時のことを、健人に見られているとは思わず、つい、苦笑してしまった。話があると女の子から呼び出され、ジンと擼Г智挨蘊gませてしまおうと思って公園で話を聞いた。告白されるんだろうなと思っていたが、まさにそのとおりだった。

「あれ、別に彼女じゃないよ」

「だ、だって、お前! き、キスして……」