かなんて、健人の頭の中には一切無かった。歩を嫌っていると言うことは、家族を拒否しているのと同等で、健人は無意識のうちに歩を嫌うことで家族を認めていないと言い張っていたのだ。
近寄ってほしくない。構ってほしくない。そう思うことで、自分のアイデンティティを確立していたのだ。所詮、嫌っていること自體が、自己満足と言うわけだったのだ。
それなら、歩に嫌われても仕方ない。傲慢だと言われ、大嫌いと言われるのは當たり前だ。歩からしたら、そんな健人の考えは知ったことではないからだ。新しくできた兄弟に、歩は仲良くなろうと近づいてきてくれたのに、健人がそれを最初から拒否した。そんなことをしてしまえば、歩が良いように思わないのは分かりきっていることだ。それでも、歩は健人に優しくしてくれた。同情からかもしれないが、あの雨の日から、歩は変わってくれたのだ。
それがどう言うことなのか、健人には分からない。分からないから、こうして悩んでいるのだった。
「……健人?」
ドアノブを握ったまま、入ってこない健人に不安を覚えて歩はリビングの扉を開けた。不安げに見上げる健人を見つめて、歩は「どうしたの?」と尋ねる。今にも泣きそうな顔は、あの雷の日とダブり、胸が苦しくなった。
「……俺と、話し合うなんてイヤだった? 健人がイヤなら……」
「イヤなんかじゃない」
心配そうな顔をして、健人のことばかり気にする歩に、健人はヒステリックに否定してしまった。健人は頭を振ってから、もう一度、歩を見上げる。歩の表情は変わらず、心配しているような悲しい目をしていた。
「俺は……、酷い奴なんだ」
漏れるような聲に、歩の眉間に皺が寄る。それを見た健人は、目を逸らしたくなったが逸らさずに歩を見上げ続ける。
「お前が前に言った通り、俺は自分が被害者だと思って、勝手に決めつけてた。母さんが再婚したこと、ど�